亡き親父と被り泣く 「老いてなお花となる 俳優織本順吉

      

遺品整理品編」

亡き親父と被り泣く

「老いてなお花となる

      俳優織本順吉

         遺品整理品編」

親父は死を前にして僕に言った。

「お前には迷惑ばかりをかけてきた。

だからせめての恩返しで、人はどうやって

死んでいくかを全部見せたい」

「……そんなもんいらんわ」

言葉通り、彼はFBに自分の死ぬ寸前の顔を映し

公開した。

さすがにそれは消去されたが、絵描き、借金、

放浪、好き勝手。そんな人だった。

本作はうちの親父よりはましだが、

家庭を顧みず、外面は完璧な俳優一筋の

男が老いて亡くなるまでを、実の娘が

「父への復讐」として撮った

ドキュメンタリー四部作の最終編。

僕はその全てを観た。

名脇役、セリフ覚えが自慢の俳優が

年老いて覚えられなくなり、カンペを使う。

しかしプライドが高く、娘には

「俺は一度もNGを出したことがない」と

泣くような声で怒る。

少女の頃から父らしいことを一度もしない

織本に腹を立てていた娘は、

「出してたじゃない。言えなかったじゃない」と

容赦なく現実を突き付ける。

わめく織本。

体も思うように動かなくなった彼は、

献身的な奥さんにも八つ当たりをする。

堪忍袋の緒が切れた彼女は叫ぶ。

「一生懸命どこにもいかずあんたの世話してる

私がなんで怒られなきゃいけないのか。

バカやろ、いい加減にしろ」

織本は泣く。

「そんなこと言うなよ」

老いる、亡くなるということが

どういうことかをこの四部作は

突き付ける。

けれど、織本は死ぬ間際にこの作品を見て、

「すごいドキュメントだ。これを撮れたのは

お前だからだ。こんな幸せな俳優人生はない。

ありがとう」と涙を流した。

最後まで自分を晒し、見世物人として

全うした老俳優の四部作に、大拍手。

最後まであえぎ、全部を見せた、

親父にもついでに、少しだけ手を叩いておくか。