「淀殿の着物」にみるデジタル復元④

小林泰三氏が取り組む「デジタル復元」。今回その復元の過程を、
「淀殿の着物」を題材に数回にわたって紹介してみたいと思います。

着物ができるまで③~村山刺繍店

刺繍をほどこす。
ひと刺しごとに丹精をこめつつ、過剰にならぬよう「あしらう」

淀殿の着物復元、仕上げを担うのは、紫式部ゆかりの地・京都紫野に佇む村山刺繍店だ。創業は明治25年、京刺繍と染の工房である。刺繍はもちろんのこと、デザインから染め、着物作りのすべてを手掛けている。

お店に伺うとすぐに、社長の村山昭治さん(72)は何点かの作品を見せてくれた。

「これが安土桃山、こちらが江戸時代、そしてこっちが明治に作られたものです。時代とともに変化していくものもありますが、昔のこうした刺繍の技術を研究し、今に活かすよう努めてます」


博物館に陳列されるような芸術作品を手にしながらも、淡々と話す村山さん。千年の歴史を持つ京刺繍の伝統を受け継ぐ、手工芸師の奥深さを垣間見たようで大きな感銘を受けた。

刺繍しすぎず、隙間を空けながら「あしらう」ことで下地の「染め刺繍」をのぞかせる。さらにリアルさが増す新しいテクニック
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今回の復元について尋ねると、「刺繍はいらないかもしれませんね」と意外な答えが返ってきた。

「いろいろな作品を見てきたけど、ここまでリアルな染めを見たのは初めて。刺繍がなくても充分に復元作品として価値がある。それに普通に刺繍を復元してみたら、のっぺりとして面白くなかった。染めの表情を活かすため、あしらい風に趣向を凝らしたらやっと面白くなった」

という。

技術に裏付けされた職人の勘が、安土桃山時代の美を蘇らせたのかもしれない。

金糸の部分に筆で糊をつけ、金箔を張り付ける。本当の金糸も刺繍され、種類の異なる輝きで意匠の表情が豊かになる
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小林氏が国宝「花下遊楽図屏風」から復元したデータをもとに、白生地に文様を織り、最新のデジタルと匠の技で染めあげ、日々研鑽を続けてきた職人の工夫で刺繍を施し、440年以上の時を越えて蘇った奇跡の着物、「慶長小袖」。

それは、日本文化をこよなく愛する人々が、それぞれの工程を情熱のバトンでつないだ、挑戦の結晶であった。