原作も映画もいい!
「ある男」



一緒に暮らしていた夫は
名前も違う別人だった……。

原作は読んでいたので、
内容は大体わかってはいたが、
安藤さくらの流す静かな涙と
窪田正孝の影のある佇まいに
オープニングから引き込まれる。

人種、貧困、家族、
自分ではどうすることも
できない出自を、人は
どうやって乗り越えるのか、
それとも耐え切れずに逃げ出すのか。
運命と言い換えてもいい人生に
どう対処するのか。
この映画のテーマは深く重い。

別人になってどこか誰も知らない街で
暮らしたい、と思ったことはないけど、
うちも貧しくて、ついでに父親は
僕が高校三年の時に家出したので
それなりに大変な10~20代を過ごした。
我が運命を呪ったこともある。
ただし僕の場合、人間が軽いので
「なんでやねん!」というツッコミ風の
怒りだったけど。

けれどこの物語はもっとシリアスだ。
別人になってみても、誰かを愛し家族が
出来れば、また新たな日々がそこに生まれる。
果たして人は別人のまま生きていけるのか、
真相がわかったとき、そんな相手を人は
同じように愛せるのか。

映画は人生に対して必死に肯定的であろうとする、
その姿勢が胸を打つ。
いい作品です。