「淀殿の着物」にみるデジタル復元②

小林泰三氏が取り組む「デジタル復元」。今回その復元の過程を、
「淀殿の着物」を題材に数回にわたって紹介してみたいと思います。

着物ができるまで①~「織元こばやし」

まずは生地づくり。
桃山の風合いを込めるために、デジタル復元の技術が活かされる。

京都市内から車で約2時間。
日本三景のひとつ、特別名勝・天橋立を有する丹後ちりめんの里に「小林商店」はある。

「私たち機屋は、着物のベースとなる白生地を織る商売です」

と三代目当主、小林孝裕さん。

ちりめんは絹を平織りにして作った織物のひとつで、生地全面に出る細かい凹凸状の「シボ」が特徴だ。

主に高級な呉服に使われているが、今回のプロジェクトではちりめんではなく、当時の時代背景を考え、しゅす織(柔らかな光沢が特徴)の綸子(りんず)をお願いし、安土桃山時代の文様を白生地に施してもらった。

綸子(りんず)の反物。綸子は織ってから精錬するため、しなやかで独特の光沢をたたえている
綸子の図柄アップ。浮かび上がる桜と菊の模様。この柄も桃山時代の着物の画像データからデジタル画像処理で抽出。綸子自体がデジタル復元である

素朴で味わい深い文様が白生地にふんわりと浮かび上がり、なんとも美しい。
匠の技が光る逸品だ。

生地がどうやって出来上がっていくのか、工場へと案内していただいた。

機織り機がずらりと並んだ工場では、ガチャガチャガチャと思ったよりも大きな機音が響いていた。

たて糸とよこ糸が交わる瞬間、よこ糸を通すシャットルが左右に飛び交う音だ。通常の着尺一反織るのに大体10時間ぐらいかかるそうだ。

織り上がった生地を丹念に検品した後は、加工場で精練され真っ白な生地に生まれ変わる。

「精練から上がってきた生地を巻き取りながら、出荷前の検査をする時が一番好きです。出来上がった生地はそれぞれ違った表情を見せてくれるんです」

と小林さん。

あたり一帯、機の音が鳴り響く地域で育った小林さんだが、昔に比べると同業者も減り危機感を募らせているという。

それだけに今回のプロジェクトに対する思いも強い。

「昔の人が作った生地の画像データを拝見して、その技術の高さに驚きました。当時の環境でよくこれだけのものが作れたなと思いますね。それを現代に蘇らせるという仕事をさせてもらうのは、職人としてこんなに光栄なことはないですね」

謙虚なものづくり人はそういうと、照れたような笑顔を見せた。