血肉湧き躍るひと 「文豪、社長になる」 門井慶喜

「文藝春秋」を創刊し、直木賞、

芥川賞を設立した稀代のプロデューサー

菊池寛の伝記小説。

文壇を飾った文豪、名士たちがきら星のごとく

出てくるから、興味は尽きないが、なにより、菊池寛と

いう人のキャラクターが面白い。

同人誌を一緒に始めた天才、芥川龍之介との

深い親交。

芥川が紹介してくれた文芸誌に、ウケを狙って

無名である自分をモデルに、芥川の悪口ゴシップを書き

「無名作家の日記」という作品を書いて評判をとる。

このあざとさ、企画力。

雑誌社を倒産させ、経営能力のない

直木三十五に「小説を書け」と奮起させ

「真珠婦人」などの大衆小説で稼いだ

ポケットマネーで作った「文藝春秋」に

場を提供する。対して、直木は文壇ゴシップを

書きまくる。

菊池はいう

「君の書くものは痛しかゆしだ。雑誌の品位のために

はやめてほしいが、売り上げのためにはつづけてほしい」

この建前と本音の使いわけの上手さ。

戦時中、軍に頼まれ「ペン部隊」なる文士従軍を

率い、自らも戦地に行く菊池。

だが反骨精神ゆえ、従軍中は決して笑わない、

反戦が根本にあるんだという意思を見せるため

仏頂面を通す。思わず笑いそうになったときも

必死でこらえる。

この頑迷さ、可笑しさ。

思い立ったら即行動、文学を誰よりも愛しながらも

ただの文学誌に収まらない総合誌を目ざし、

何よりも民意を得ることを第一とし、

座談会などを面白い企画を次から次に考え出す。

経営者と表現者の二つの顔を見事に両立させた

類まれなる天才の一代記にわくわく。

ちなみに「文藝春秋」の春秋とは季節を指すもの

だが、転じて歳月そのもの、時代のそのものの

意味になったそうだ。