国家は平気で嘘をつく 「沖縄密約 ふたつの嘘」 諸永裕司

沖縄返還の際、米軍の引っ越し費用

その他もろもろのお金を日本が

払うという密約があった。

ときの総理、佐藤栄作は、一切の条件なしの

平和的な沖縄返還をアピールしたく

その存在を隠し続けた。

なんと彼は一連の政治的行動で、ノーベル平和賞を

もらう。

この茶番劇にノーを突き付けるジャーナリストが

いた。

元毎日新聞の西山太吉だ。

彼は外務省の女性との関係を通じて

秘密文書を手に入れ、記事にした。

世間は国家は西山の取材方法を非難し、

肝心の密約は反故にされた。

そして30年の月日がたって、彼の

訴えは認められた。

というのが沖縄密約事件。

これまでも多く書かれてきたし、

僕もそれなりに読んできたが、

本作が面白いのは、西山氏の奥さんと

事件を担当した弁護士、二人の女性の

視点から描いてあるところだ。

とくに夫の浮気の嘘と国家の嘘に揺れ動く奥さんの

心情が胸を打つ。

「裏切られたのはまぎれもなく自分なのに、

啓子はその痛みよりも、遠く離れた夫が

気がかりだった」

「このまま別れたら、主人は文字どおり、だめになる。

国からも、社会からも、新聞社からも捨てられ、

そのうえ私が捨てたらと思うと……」

この手の本にありがちな新聞記事的な

記述も少なく、小説を思わせる描写の

上手さと、反国家を貫くぶれない著者の信念が

刺さる。

沖縄の基地問題の根源、思いやり予算の

拡大、今に通じるトラブルの発端が

この密約にある、と思うと、決して忘れては

ならない事件だ。

国家は平気で嘘をつく。

本を閉じ、僕は何度も自分に言い聞かせた。