「落語はシンプルで豊かな芸能」~柳家喬太郎


手ぬぐいと扇子ひとつで、人を笑わせ泣かす驚かす、
「落語」は世界に類を見ない、エンターテインメント。
この落語の魅力を当代一の人気落語家たちにインタビューする「ここほれ!落語」。
第一回は柳家喬太郎師匠です。

Q 落語を好きになったのは?

本格的に聞き始めたのは中三ぐらいじゃないですかね。
その前も、特別好きというわけじゃなく、世間一般と同じくらい。
小学校の時から演芸番組はよく観てましたが、
今の子どもがお笑い観てるのとおんなじ感じでした。


Q 卒業して就職されましたが、落語家になるという選択肢は?
 
いや、落語家になる気はなかったですね。
落語で飯を食えるわけないと思ってたし、好き過ぎたんじゃないっすかね、
若干揺れなかったわけじゃないんですけど、
畏敬の念が強かったんだんでしょうね。

それに書店員になったんですが、なんでもいいから就職したわけじゃなく、
好きな仕事だったので満足もしてました。


Q それがどうして落語家へ?

書店員の仕事も好きでしたが、
やっぱり噺家になってみたいという思いが
強まったということじゃないですかね。

僕は大学生の時に銀座にあった「椀や」という飲み屋で
アルバイトしてたんですよ。
そこは毎週土曜日落語会をやってるとこなんですが、
落語協会が番組作ってたんで前座、二つ目、真打と毎回三人来て、
真打もかなりいい師匠が、小さん師匠とか小三治師匠とかもちろん来たし、
うちの師匠(さん喬師)も当時まだ四十ぐらい。

それで落研でバイトなんかしてると、当時の前座さんが、
やっぱり前座って下が欲しいんですよね。上にあがりたいから。
それで「あんちゃん、噺家にならないの」っていうから
「絶対になりません」(笑)っていってたんですよ。


「ならないのはわかったけど、仮になるとしたら誰がいい?」
「さん喬師匠ですかね」っていったら、
噂がすぐ広まっちゃったらしいんですよ。

それでうちの師匠の耳にも入っちゃって。
それから三年経って、僕は弟子入りをお願いしたんです。
だから行ったときには、「ああ来たか」という感じでした。
断れることもなく、
「ああ、しょうがねえかな」という感じだったんじゃないっすかね。


Q 弟子入りしたときに、師匠からいわれた言葉があったそうですね。

「お前はゼロじゃない、マイナスからのスタートだ」といわれました。

Q それはどういう意味ですか?

落研やってた時代の垢を落とさないなきゃダメだ、ということですね。
変な口調に固まってるんですよね、やっぱり落研って。
一番いいのは何にも知らずに入ってくることですね、噺家になるのは。

あんまりなんにもないのを一から仕込むのも大変だけど、
でもなんにもないほうがいいんです、絶対。真っ白がいいんです。
もっといえば白って色すらついてないほうがいい。無色がいいんです。

僕なんか学生の時に新作で二つ賞取ったりして完全に色ついてたんですよね。
そういう意味では。面倒くさかったと思いますよ、師匠は。

そういう弟子が来たから。


Q 師匠が考える「落語の魅力」とは

ひとことでいうとシンプルで豊かな芸能だから、ということかな。
はっきりいうとなんだかよくわかんないですよ、自分でも。

でもシンプルっていうのはいいですよね。
落語はストーリーを紡いでいく芸能の中では一番シンプルなんですよ。
ひとりで喋るわけですから、着替えもしないし、書き割りもないし。

それでもお客さんの頭の中には風景が浮かぶし、
目の前に風景が見えることもあるし、もちろん爆笑の渦になることもあるし、
新しいこともできるし、古いものもできるし、
だからシンプルで豊かなんですよね。

目の前にものを作っちゃうとそれしか見えないじゃないですか、
ないといろんなものが見えるんですよね。
ないからこそ、いろんなものが見える。


Q 落語の楽しみ方は?

楽しみ方なんて考えないで素直に聴くのが一番だと思います。
もちろん好きになれば知識もついてくるし、
知れば知るほど楽しくなるという部分もあるし
それも正しいんですけど。

今でもたまに聞かれますよ、
事前に調べていったほうが楽しいですかとか。
そんなことする必要もないですよ。

予備知識がなければ楽しくない芸能なんが芸能じゃない、と僕は思う。
予備知識がないところで楽しんでもらうのが僕らの仕事ですからね。
もちろん知れば知るほど楽しくなりますよ。

落語、歌舞伎興味なかったけど、落語を通じて歌舞伎を観るようになった、
ああ七段目ってこういうことだったのか、
へっついってなんとなくイメージしてたけど調べたらこういう道具だった、
だからこういう風になるんだ、とますます面白くなったというのはあるけど、
その前段階でもって知らずに聞いて、
その時はそれで楽しかったというので十分じゃないですかね


Q これから挑戦したいことは何ですか?

いかに休みを取るか(笑)、
いかにこういう取材を断るか(笑)、ですね。

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(やなぎや・きょうたろう)
1963年東京生まれ。日本大学商学部卒。
1989年林家さん喬に入門。
師匠譲りの確かな話芸で古典落語に磨きをかける一方、
鋭い観察眼に基づく新作落語で注目を集める。
2000年、12人抜きで真打昇格。
NHK新人演芸大賞、芸術選奨文部科学大臣賞(大衆芸能部門)、
国立演芸場花形演芸会・大賞受賞など、受賞歴多数。