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手ぬぐいと扇子ひとつで、人を笑わせ泣かす驚かす、
「落語」は世界に類を見ない、エンターテインメント。
この落語の魅力を当代一の人気落語家たちにインタビューする
「ここほれ!落語」。第5回は瀧川鯉昇師匠です。
-落語を好きになったのは
小学生の頃、おじいちゃんが聞いていたラジオの演芸番組がきっかけですね。
おじいちゃん、盲人だったんですよ。だからラジオの演芸番組に私がチューニングするんです。
父親が朝新聞に赤鉛筆でマルをつけてくんです、今日はこことこの番組。
あの頃演芸番組は15分から30分で週に10本ぐらいありましたからね。
私はそれを見ながら、おじいちゃんの横で次から次にラジオをチューニングするんです。
落語、浪花節、講談、漫才、いろいろ聞きましたね。
だからもう学校とそれしかないから、将来なんになるんだといわれても、ずーっと学校にいる、将来小学生といえないから(笑)、じゃあ浪花節語りって。
-落語家か役者さんになりたかったとお聞きしましたが
だから、まともなことなんて考えてないんですよね(笑)。
就職とかそういうの、結局最後まで考えなかったですもんね。就職試験も一度受けてみようとかないですから。
ただ学生時代、教職の授業は取りました。
目がいいから単位、全部取れました(笑)。
学業は目です。全部、目です。
隣の答案が見られればなんとかなるんですよね(笑)。
-どうやって落語家になれたんですか
先代の小柳枝師匠に弟子入りしようと楽屋に行ったら、「飲み屋にいる」といわれたんで、行ってみると、へべれけになってお客と喧嘩してたんです。
それを「まぁまぁ」と仲裁して、じゃあちょっと気分直しにということで一緒に二、三軒飲み歩き、最後に師匠の家に行って、酔っぱらったまま泊まちゃったんです。始発までこっちも帰れないから。
で、台所で寝てたら翌朝、目を覚ました師匠が「誰だおめえは!?」っていうから、「弟子にしてください」っていって、この世界に入りました(笑)。
弟子になったのが20歳、楽屋入りしたのが22、師匠が廃業したのが23の時でした(笑)。その後は春風亭柳昇の弟子になりました。
-修業時代はどうでしたか?
とにかくお金がなかったので、たんぽぽなんか食べてましたね。
皇居の横のとこに、いいたんぽぽがあるんですよ。お金がなくなると野菜代わりにして塩茹でおしたしにして、ガスが止められちゃうと塩もみにして、塩も買えないとちょっと息とめておくと汗が出るから(笑)。
なんて話をしてたら、ラジオ番組に出て欲しいという依頼があったんですよ。
農協が提供で朝6時ごろの番組、FM東京の「自然食なんとか」っていう。
で、臨場感を出したいんでスタジオじゃなく現場で、皇居で録りたいっていうんですよ。
僕初めてのラジオですから、
「台本は?」
「当日渡しますから」
「ああ、そうですか、でも覚えられない」
「いやそんなに難しくないですから」
ってことで、当日です。
6時からの生放送、半蔵門のところで、アナウンサーの人が自然食の話をずーっとして、で、
「今日お招きしたお客様、目に映る自然を愛しながらそれを食し、栄養にしながら活躍をなさっている落語家さんです。それではひとこと」
「えー、たんぽぽはうまい!」(笑)
「ありがとうございました」
それで終わり。5000円で源泉引かれて4500円送ってきました。
それが初めてのマスコミの仕事でした。
-落語の魅力とは
頭と体が休めることですね。
休憩から熟睡までというか(笑)。
「こんないい噺を聞いたんでぜひ人を誘って、、」という人もいますけど、でも僕はあの「よく寝た」っていう、ほんとに体が休まっちゃうほうがいいと思うんですよね。
落語は、ほんと副作用のない睡眠剤ですよ(笑)。
師匠の柳昇は「飯と味噌汁のようなものでいい」って言ってましたね。
なんの変化もないんだけど飽きない。「昨日肉食ったから、今日いいや」という人はいるけど、「昨日飯食ったから今日一日いらない」って人はいないじゃないですか。
だから落語ってそういうもん、あれば聴くし、なければ別に追っかけることもないっていってましたね。
-これから挑戦してみたいことは
落語はネタを増やすことですね。
それから今までこんなこと考えなかったけど、60になると物忘れと、それと滑舌悪くなったり、だんだんありますね。朝起きて舌が回ってるかどうかを、試さなきゃいけなくなりました。
前はいいたてのこんにゃく問答とか、いいたてのとこだけ朝やれば大丈夫だったんですが、今はもうちょっと喋るかどうか、やってからですよね。
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(たきがわ・りしょう)
静岡県浜松市生まれ。明治大学農学部卒業後、8代目春風亭小柳枝に入門。1990年真打ち昇進、春風亭鯉昇となる。2005年、春風亭あらため、瀧川鯉昇となる。「NHK新人落語コンクール」最優秀賞。「国立演芸場花形若手落語会」金賞。「にっかん飛切落語会」若手落語家奨励賞。「文化庁主催51回芸術祭」優秀賞。
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