名人芸 「小説 浅草案内」 半村良

僕が手本としている人情小説。

何度読んでも、文章の見事さに

唸る。

引きたい箇所ばかりで困るし

長くなるが、例えば「横丁の猫」と

いう第一話。

長くなるので、興味のある方だけ読んでください。

カウンターに7,8人、奥に畳の小間がある

ダーちゃんがやってる「旬」という小料理屋に、

噺家の橘屋円蔵師匠と行った時の場面。

「こりゃでっかい店だな」

のっけに円蔵がそんなことを言う。

「あんちゃん、座敷を間違えんなよ」

師匠は弟子のことをあんちゃんと呼ぶ。

(中略)

「ここへあがりゃいいんでしょ」

奥の狭い座敷にグラスや突きだしの用意がして

あるのを見て、橘屋がそう言う。

「下足のおじさんはお休みなの……」

「ええ、実家に不幸があったとかで」

ダーちゃんはもっそりした外見に似合わず、

橘家の冗談を軽くいなしてる。

「やだね、浅草は、みんな芸をもってやがる」

そう言いながら橘屋は弟子を小突いた。

「見習えよ」

「はい」

くー、憎いね。この小股の切れ上がった文章。

いくつも紹介したい場面があるので、次回また。

#小説浅草案内 #半村良