スマートなフーディーをめざして

「お客さん物語

  飲食店の舞台裏と料理人の本音」

         稲田俊輔

飲食業に関わって二十余年になる。

主に広告と企画、売り上げの戦略を

考える仕事だ。

常に視点はお客さん側でモノを考えてきたが、

飲食店側の気持ちもよくわかる。

そんな僕にとってこの本は、かゆいところに

手が届く感じで、日ごろ思っていることを

代弁してくれる。

著者は人気の南インド料理専門店「エリックサウス」の

総料理長。

お客さんの炎上を避けるために、柔らかい物腰で

いる飲食の人の割には、結構ストレートに気持ちを

語ってくれる。

僕が最も、そうだと納得したのは、こんな文章。

飲み物は飲みたくなければ注文しなくていい、

というのは、それはそれで正論です。

しかし、仮にそういうお客さんばかりに

なってしまうとほとんどのお店は潰れて

しまうのも、如何ともし難い事実。

基本的に料理はあまり儲かりません。

欧米で生まれた「レストラン」という

システムそのものが、お酒で利益を出す

ビジネスモデルなのです。

……さらにこんな文章。

イタリアンのリストランテでカップルが

それぞれパスタ一皿ずつだけを食べている

光景は、シェフに小さなため息を吐かせるでしょう。

そこで一緒にシーザーサラダをシェアし、

傍にカシオレが置かれ、食後にまたそれぞれ

デザートとコーヒーを楽しんでくれれば、

想定に近い「利益」は確保できるかもしれませんし、

オペレーションも特に乱しません。

しかしそれもやっぱり、シェフの心を少しだけ

ざわつかせます。

お店の勝手な自己実現欲求に、お客さんの側が

いちいち気を遣って合わせてあげなければ

いけない道理は、確かに無いのかもしれません。

しかし、(これはあくまで個人的な意見ですが)

お店が作り出そうとしている世界観を理解し、

それに身を委ねることは、そのお店を最大限に

楽しむための最も確実な方法だと思います。

……ほんとにその通り。お金を払ってるのだから

何を食べようと自由、と思ってる人も多いけど、

少なくともレストランの悦楽を味わうためには、

お客にもそれなりのルールがあるんだよな。

スマートで楽しいフーディー、目指してます。