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新刊の値段が2000円を超える
ようになって、普段は文庫本しか
買わない。
けれどこの作家は別だ。
「鳩の撃退法」、「月の満ち欠け」
と名作を世に放ってきた彼が
また、深く胸を揺すぶる小説を発刊した。
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主人公かおりは交通事故を起こし
逮捕され、息子を刑務所で産む。
出所後会えなくなり、世間の目を
気にしながら生きていく。
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凡庸な作家であれば前半をサスペンス
仕立てでドラマチックに描くが
もちろん佐藤は違う。
淡々と抑制された筆で物語を運び、
主に描かれるのは、息子を思いながら
会えない思いを胸に抱き、地味な暮らしを
送るかおりの日常だ。
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人に裏切られたり、悪意を向けられたり
手を差し伸べる人がいたり、と起伏は
あるのだが、文章は淡々としている。
だからこそ、普段の主人公をまるで
のぞき見しているかのようなリアリティが
ページをめくるたびに迫ってくる。
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人は誰しも間違いを犯す。
でも一度間違えたからといって
全てを否定されるのは違う。
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奥底に流れているのはそんなメッセージだと
僕は受け取った。
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ラストシーンの儚さ、切なさ、美しさは
2000円以上の価値は十分にある。
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