新田次郎文学賞「広重ぶるう」 

新田次郎文学賞

「広重ぶるう」 梶よう子

浮世絵師の中では歌川広重が

一番好きだ。

「名所江戸百景大はしあたけの夕立」

を初めて目にしたときの感動は

今でも覚えてる。

繊細さと緻密さ、そして香る叙情。

北斎のような強烈な自我も存在感も

薄いが、品の良さとスマートさがいい。

作品も目に優しく静謐な美しさに魅せられる。

本作はそんな広重の生涯を描いた歴史小説。

彼の人生もまた、北斎と比べれば

型破りな逸話もないし、悪く言えばそんなに

面白いものではない。

けれど僕らと同じように、悩んだり落ち込んだり

しながら、泥臭くチャレンジする。

芸術と芸能の狭間で揺れ動くさまも

人間味があって素敵だ。

印象に残っているのは広重のこんな台詞。

「絵師は銭金で筆を使うこともある。てめえの本意

じゃねえものを描くこともある。が、根っこはよ、

描きたいって思いにいつも衝き動かされているんだ。

画にてめえの魂を込めるんだ。

病で身体が動かなくなっても、筆だけは執り続けた。

損得じゃね、どんな時でも筆を執る。

それが絵師の矜持なんだよ」

くぅー、しびれるねー。

ここ最近グッとくる小説がなかったので、

久々の興奮が嬉しい。