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手ぬぐいと扇子ひとつで、人を笑わせ泣かす驚かす、
「落語」は世界に類を見ない、エンターテインメント。
この落語の魅力を当代一の人気落語家たちにインタビューする
「ここほれ!落語」。第2回は桂文治師匠です。
ー落語を好きになったのは
小学生の時に観た、ドリフターズの人形劇「飛べ!孫悟空」のきっかけです。
そこにゲストで三遊亭小円遊師匠や桂歌丸師匠が出てたんですが、
三遊亭や、歌丸って名前が珍しいなぁと思ったのが最初のきっかけで、
そういう人たちがテレビ欄をみると出てますよね、演芸番組に。
なんだろうと思ってみたら、それが落語だったんです。
それからですね、好きになったのは。
小学校4年の頃に小南師匠の「転失記」覚えて親戚の前で演ったり、
中学の時は小三治師匠の「初天神」をやったりしてました。
ー中学卒業後、文治師匠に入門されましたね
あれも不思議な縁でして。
ちょうどうちの師匠が落語をしに、田舎(宇佐)に来たんですよ。
それで弟子になりたいと思って、楽屋の前でモジモジしてたら、
関係者の人が「なにやってる?」っていうので、
「いや、文治師匠に会いたいんですが」。
その頃伸治だったんですかね。
「じゃあ私が」といってくれて、師匠に
「この子がね、師匠の弟子になりたいってそういってるみたいですよ」
なんて。
そしたら、
「まぁ今はこういう世の中だから、高校ぐらい出ないと辞めたときに困るから」
ということで、ひとまず高校へ行き、卒業して弟子入りしたんです。
ー修業時代は厳しかったですか
まぁ、5年内弟子やりましたからね。僕はよく怒られましたね。
あれは、高尾山へ師匠と豆まきに行ったときでした。
師匠の荷物と僕の荷物でいっぱいいっぱいだったので、
帰りにたくさん頂くお土産をお囃子さんにあげちゃったんですよ。
「これ重いからお囃子さん持って帰ってよ」って(笑)。
そしたら師匠が、
「お前、あれどうした?」
「あげちゃいました」
「バカヤロー、あれお前、豆大好きなんだ」
って怒られました(笑)。
「お前はね、聞かないうちになんでもやっちゃう。ほんと、宮戸川のおじさん(※)といっしょなんだよ、飲み込みのがた治(※)だよ」
って、よく言われましたね。
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※宮戸川のおじさん……落語「宮戸川」に出てくる、なんでもわかった、わかったと早飲みするおじさん
※がた治……桂がた治。前座当時の名前
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ー落語の魅力とは
まあね、聞いてて楽しいという、それがまず一番ですね。
それに落語はあんまり悪い人は出てこないんですよね。
人情噺や怪談噺は別ですが、与太郎だって必ず輪の中に入ってますよね、
仲間外れにしないで。
仲間内の悪い人でも嫌な人でも、輪の中にいるじゃないですか。
一応声かけて「嫌いなんだよ」という(笑)。
だったら声かけなきゃいいじゃないかと思うんですが、
輪の中にいるんで。
そういうところも、魅力ですね。
ー落語の楽しみ方は
まずね、寄席や落語会に来てもらって様子を見てもらって。
最初はね、歌舞伎とおんなじでわかんないかもしれません。
歌舞伎は何回も通わないと言葉もわからない、筋もわからない。
ただ、歌舞伎にはイヤホンガイドがありますが、寄席にはないんで。
〝キセル〟ってったってね、若い子は知らないでしょうから。
まず観てもらって1回だけじゃなく2、3回来てもらえば、
長屋の風景とかいろんな人物がね、なんていうんでしょう、
3Dみたいに浮き出てきますよ。
まず来ていただきたい、ということですね。食わず嫌いにならずね。
ーこれから挑戦したいことは
最近「自分のための落語会」っていう、小さな会を毎月やってるんですよ。
若いお客さんを増やしたいというのもあって、落語だけでなく、
この噺は誰に教わって、その時にこういうことを言われてね、
僕は今それを守ってる、あるいは僕はこう思うんでこうしてやってるとか、
解説をつけてるんですよ。
そういった会を、もっとやっていきたいですね。
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(かつら・ぶんじ)
大分県宇佐郡院内町出身。1986年4月、10代目桂文治に入門。94年、NHK新人演芸大賞。97年、北とぴあ大賞。98年、第3回林家彦六賞。99年真打昇格。2009年、第64回文化庁芸術祭賞新人賞。12年、11代目桂文治襲名。