可愛くて、愛しくて、哀しくて

「この場所であなたの名前を呼んだ」

         加藤千恵

読みながら何度も涙が滲んだ。

NICU(新生児集中治療管理室)を

舞台にした連作長編小説だ。

体重2500g未満の小さく生まれた

赤ちゃんを、医師やナースがさまざまな

治療、ケアする場所がNICUだ。

小説にはこう記されている。

大人相手であれば適当にできる、という

わけではないが、動作に対する労力が、

やはり桁違いに思えるときも多い。

小さな衝撃でも簡単に割れてしまう卵を、

手にいくつも抱えて歩いているような、

そんな緊張感が常に伴っている。

……読みながら、保育器に入った小さな

赤ちゃんの姿が何度も浮かぶ。

早産がゆえにさまざまなリスクを背負いながらも

懸命に生きる赤ちゃんと、支えるママとパパ。

18トリソミーーと呼ばれる染色体異常の

赤ちゃんが出てくる場面がとても深く心に

残っている。

出産にたどり着く前に、お腹の中で亡くなって

しまうことが多い赤ちゃんが誕生するシーンだ。

ふぇええーーん。

泣き声だ。生きている、と思った。生きている。

赤ちゃんは生きている。生きて、泣いている。

「産まれましたよ」

看護師さんが言う。わたしはこぶしをほどく。

さっきまでとは異なる理由で手が震えている。

目も口も開いている。黒目がちの目とは

視線は合わない。思い出したように

泣き声をあげる(中略)。

なんて小さいのだろう。そして、なんて

可愛いのだろう。

たくさん言いたいことがある気がした。

だけど言葉にならず、わたしの目からは

どんどん涙が溢れた。

ありがとう、と絞り出すようになんとか言い、

驚くほど小さな手に触れる。

華奢な指が数本、重なっている。

手の甲はあたたかった。

けれど、この赤ちゃんも二か月後、亡くなって

しまう。

現在、現在、赤ちゃんの約9%が低出生体重児、

約6%が早産児として生まれているそうだ。

ページをめくりながら、僕は

何度も何度も、頑張れ、頑張れと声をかけた。

命が生まれることがいかに大きな奇跡であるか、

それがどんなに素敵なことかを

教えてくれる小説です。