自由闊達 「おいしい人間」 高峰秀子

大女優の筆運びにいつも感心する。

気負うことなく心のままに言葉を

つらねる自由さは、見事。

たとえばこんな感じ……

五歳の頃から映画の子役として忙しく働いていた

私は、小学校するロクに行っていない。

「ガッコへ行けない」という欲求不満のせいか、

撮影の合間にはひたすら、本にかじりつくように

なった。

本屋へ走っては手当たり次第に本を買い込み、

むつかしい本はブン投げ、やさしそうな本だけを

拾って読み散らす、という全くの乱読であった。

「人づきあいはしない。物事に興味を持てず欲もない。

性格きわめてぶっきらぼう」という私を、

亭主の松山善三は「変人」だと言う。

三十六年も連れ添った亭主が言うのだから、

多分そうなのだろう。

羽毛布団は寒い国のためのもので、日本では必要ない。

ましてや適温を保つホテルには全くといっていい。

という記述のあと、著者は布団を脱いだり着たりで

風邪をひく。チェックアウトのあと、こう続く……。

ニッコリ笑顔の支配人が寄って来て、

「羽ふとんはいかがでしたか?私どもでは

スィートのお客様にだけサービスをさせていただいて

おります」と胸を張ったが、どういたしまして。

「オ前、着テ、寝テミイヤ、地獄ゼヨ」

と、心の中で呟いた。

……文は人なり、の見本のような本です。