「大沢親分への手紙」~長田博幸の誠意②

…日本ハムに入団した長田は、以後20年間を選手、コーチとして過ごした。

入団して数カ月もすると、レギュラー選手との間には決定的な実力差があることを知る。

それでも大沢は事あるごとに長田を食事に誘ってくれた。実力もない自分をなぜ監督は気に掛けてくれるのか。大沢は何も言わなかった。

一軍の試合に出場することはなかったが、長田はブルペンでひたすら投手の球を受け続けた。手を抜くことなく、1球1球を受け続けた。

そのうち、投手たちがアドバイスを求めてくるようになった。試合で好投すると、長田のところにやって来て感謝の握手を求めてきた。

(ああ…こんな俺でも、チームの役に立てている)

それが無性に嬉しかった。

(よしっ…俺は日本一のブルペン捕手になろう)

裏方に徹した長田は7年間の現役生活を終えると、球団職員を経て、1軍バッテリーコーチに抜擢されるまでになる。

野球に対する彼の情熱はチームにとってプラスになる。そう直感して一軍のブルペンに置き続けた大沢。長田も地味な役目に腐ることなく、その情熱のすべてをチームに捧げ、誠意をもって大沢の気持ちに応えようとした。

一通の手紙によってプロ野球選手としての扉を開いた男。そこには幸運や温情という要素があったかもしれない。

しかし20年間、プロ野球界にいることができたのは、まぎれもなく彼の「実力」によるものだ。

……

長田は現在、球団の先輩からの誘いを受けて入社した会社で営業所長を務めている。そこで彼は若い社員たちに繰り返す。

「初対面の人に与える印象は、とても大切なんだ」

それはそのまま、彼自身の人生哲学でもある。(おわり)

長田さんのことは、当日勤めていた会社の後輩に紹介されました。

柔らかな笑みをたたえ、穏やかな話しぶり。プロのスポーツ選手にありがちな威圧感はありませんでしたが、何か人を引き付けるものを持った方でした。

裏方の仕事を誠心誠意、つづけられること。それも一つの才能であり、自分を自分たらしめる武器であることを学んだ取材でした。