「赤ちゃんをわが子として
育てる方を求む」 石井光太
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読み終わるまでに
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本作は、特別養子縁組の法律を勝ち取るために
国を相手に戦った産婦人科医、菊田昇の
評伝小説だ。
僕は初めて知ったが、「特別養子縁組」とは、
実親に育ててもらえない子どもたちが、別の夫婦に
引き取られ、実子同然に育ててもらえる
ことを認める制度のことだ。
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主人公、菊田昇は遊郭の家に育ち、
たくさんの女たちの悲劇を見てきた。
彼女たちを救おうと彼は産婦人科医を選び、
故郷石巻で開業する。
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しかし一番の稼ぎ口は、中絶手術だった。
なかでも大変なのは、当時はまだ認められていた
妊娠七か月までの掻把。
赤ちゃんの姿そのままに出てくる子を死産の
まま産ませることのつらさ。
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さらにもっと悲惨なのは、臨月間近になり
それでもおろさなければいけない場合、
医者は泣き声を上げる赤ちゃんを殺めなければ
いけない。
レイプをはじめ、どうしても産めない事情の
女たちの悲劇を守るためには、医者としては
仕方がない。
菊田は苦悩し、そして決意する。
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「八か月以上の女性には出産してもらって、
その赤ん坊を不妊症の夫婦にあげてみては
どうだべ。実子として育てるんだ」
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夫婦が血のつながりのない赤ん坊を
自分の子どもとして届けるには、
医師が出生届で偽証しなければならない。
それは明らかな違法行為。
だから看護婦がいう。
「できればいいですけど、それこそ
法律に反しますよね」
菊田が返す。
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「そりゃそうだが、妊娠八か月の中絶だって違法だ。
どうせ同じ違法行為をするなら、赤ん坊の命を
助けるためにすべきでねえのか。
誰がどう見たって、赤ん坊をバケツに沈めて
殺すよりマシと思うべ。
俺が赤ん坊を殺すのも、別の医者に殺されるのも
もうたくさんだ。
赤ん坊ば救うには、この方法しかねぇ」
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以来彼は、自分の生涯をかけて法律を勝ち取る
まで国を相手に闘いを続ける。
そして昭和63年、特別養子縁組法案は
正式に施行される。
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いやー、ほんとうの偉人というのは、
菊田昇医師のような人なんでしょうね。
こんなすごい方、素敵な人生を、
簡潔で明解な文章で小説にしてくれた
著者の石井光太さんにも感謝です。
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10年に一度あるかないかのいい小説です。