真摯な創作の記録。

「映画の生まれる場所で」 是枝裕和

フランスで撮った「真実」の

クランクアップまでを描いた

創作エッセイ。

監督の日記、手記、画コンテなども

紹介されていて、映画ファンには

たまらない一冊。

なかでも面白かったのは、

カトリーヌ・ドヌーブという大女優の個性。

公開後三年経った、ある日の会食、

30分遅れてきた彼女は、

「あら何?何も食べずに待ってたの?(バカねぇ)」

それが最初のひとこと。

そして席につくなり、顔をしかめて

「何この音楽……趣味悪いわねぇ……夜にこんな

音楽かけないでしょ……止まらないの?」と注文。

(自分で指定したレストランなのに……)を

心の中で突っ込みを入れたが、僕は彼女が

席に着いて5分も経たないうちにもう

クスクス笑いが止まらなくなっていた。

面白いねー、この自由奔放さ。

さらに描写は続く。

興味なさそうにメニューを見て適当に注文を

済ました後はノンストップで最近観た映画と

出演した作品の寸評(主には悪口)を楽し気に

続ける。

これも撮影中と一緒。

「嫌い」「才能無い」とジャッジされると完成

した作品も観ないし監督とも二度と会わないと

いう話をされていたので、こうして公開後

3年経ってもディナーに誘ってもらえて

正直ホッとしている。

監督は彼女に対してこう記している。

何だろう、この子どものような、わがままとも

違う素直さは。75歳カトリーヌ、手強い。

もちろんエッセイの一番の面白さは

是枝監督がどんな風に映画を撮っているか、

創作への姿勢、意志、想いがよくわかるところだ。

僕は本を片手に、映画「真実」を見直し

各シーンに対する監督の狙いを、ときには

映像を止めながら観ていった。

すると映画が今まではと違うものに見えてきて、

とてもスリリングな経験をさせてもらった。

僕もこれまでプロデューサーとして脚本家として

3本の映画に関わってきたが、いやはや何にも

わかってなかったと苦笑い。

監督は言う。

僕は以前、映画に対して抱く感情を「畏怖」と「憧憬」と書いた。

多分その感情は変わらない。

是枝さんが記したこの言葉を忘れるな。

僕は何度も自分に言い聞かせた。