真っ当な人。 「音楽は自由にする」 坂本龍一

教授が綴る自伝的エッセイ。

クラシカルな音楽教育を受けた

少年が、現代音楽、小演劇、

ポップスの表現者と出会い

交じり合いながら、自分の音楽を確立

していく様子が語られている。

客観的で淡々と記されているが

興味深いエピソードが満載だ。

長くなるから興味のある方だけ、

読んでください。

たとえば、武満徹氏。

大学時代坂本は、「武満って邦楽器なんか

使って右っぽい。批判しよう」と演奏会の

会場まで行き、文句を綴ったビラを配る。

すると本人が来たので、坂本は武満に

「あなたは和を作品に使ったりしてどういうこと

ですか」と詰め寄ったという。

武満はちゃんと話を聞いて30分ほど立ち話を

したが、それに感動し以来、縁が出来会うようになり

親しくなる。

ロンドンで会ったときは、「戦場のメリークリスマス」

などですでに映画の仕事を手がけていた坂本は、映画

音楽の話をした。

「武満さんも僕も小津が大好きなんですが、一点だけ

気に食わないことがある。音楽がひどいと。それで

いつか2人で小津の映画の音楽を全部書き換えちゃおう、

と気炎をあげました」

大学の頃は自由劇場、赤テントなどと仕事をする

ようになり、その流れで友部正人に出会い、

ツアーに参加し、音楽人脈が広がり、

山下達郎→大瀧詠→細野晴臣とY]MOに

つながっていく。

坂本は細野との出会いをこう記している。

「細野さんの音楽を聴いて、僕が昔から

影響を受けてきたドビュッシーやラヴェルや

ストラヴィンスキーのような音楽を全部

わかったうえで、こういう音楽をやっている

だろうと思ってた。ところがほとんど知らない

という。

矢野顕子さんも同じだった。高度な理論を

知ったうえでああいう音楽をやっているんだろうと。

でも訊いてみると、やっぱり理論なんて

全然知らない。

つまり、ぼくが系統立ててつかんだ言語と

彼らが独学で得た言語は、ほとんど同じ言葉だった。

それで確信を持ったのは、ポップ・ミュージックと

いうのは相当に面白い音楽なんだということです」

インテリジェンスと素直に感動する力を

併せ持った坂本さんが、いかに真っ当な人か

よくわかる記述です。

それにしても、

「YMOをやる前まではニヒルな日雇い労働者という

感じで音楽をやっていた」ことには驚いた。

当時から相当な売れっ子だったのに。

YMOが売れたことに戸惑いを覚えていたのも

びっくりした。

「海外でウケたということで、それまでYMO

のことを知らなかったような人たちにも、。

一気に知られるようになった。

社会現象とまで言われました。

僕はそれまで”無名でいたい。前に出たくない”と

思って生きてきたから、それはまったく予想外の

ことで、本当に困りました(中略)

そういう状況を、僕は憎悪するようになりました」

ねぇ、含羞ある真っ当な人でしょ。

ここまでが本の半分。次からは世界のサカモトに

なっていく過程をこれまた客観的に記しています。

大島渚、ベルトリッチ、アカデミー賞、政治、

環境活動などさらに面白い話がいっぱいですが、

それはぜひ読んでみてくださーい。

いやー、坂本龍一、すごい人です。