何度読んでも泣き笑い 「赤めだか」 立川談春

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高校を2年で中退し落語家を目指して、立川談志に入門した少年が、新聞配達をしながら修行を重ね、真打になるまでを綴った名著。

お弟子さんが書いた数ある談志本の中で、秀逸な1冊。

何度読み直しても、ぐっとくるのは思春期ど真ん中でもだえ苦しむ少年から青年の心の軌跡が、明解で無駄のない文章で綴られているから。

ご存じの方も多いと思うが、この本には師匠談志の名言も散りばめられている。17歳の著者が談志に弟子のお願いをすると、師は、

「君の今の持っている情熱は尊いものなんだ。大人はよく考えろと云うだろうが自分の人生を決断する、それも17才でだ。これは立派だ。断ることは簡単だが、おれもその想いを持って小さんに入門した。小さんは引き受けてくれた。感謝している。

経験者だからよくわかるが、君に落語家をあきらめなさいと俺には云えんのだ。加えて俺には後進を育てる義務がある。自分が育ててもらった以上、僕も弟子を育てにゃならんのですよ。つまり、俺は君に落語家になれとも、なるなとも云えん立場なんだな。わかるね」

弟子入りが許されて、談志は「坊や、カレーの作り方を教えてやろう」といい、冷蔵庫の残り物を手当たり次第に入れ作る。なんでもだ。しまいにはチーズケーキ、らっきょに柴漬けも入れる。

やがて完成したカレー、談春少年はおののきながら目をつぶって一口食べる。意外にもうまい。少年は、夢中で食べ、お代わりしてもいいですか。すると師、

「許す。カレーってのはそういうもんだ。こんなものに1500円も出して喰うことはねぇんだ。下らねェ海老だの肉だの入れるこたァねェんだ。坊や、よく覚えとけ、世の中のもの全て人間が作ったもんだ。人間が作った世の中、人間にこわせないものはないんだ」

最後にもうひとつ。

弟弟子の志らくの才能に嫉妬をした談春、あえて友達になり、彼の才を研究しようと決める。そんな談春にある日、談志が突然、「お前に嫉妬とは何かを教えてやる」と云った。

「己が努力、行動を起こさず対象となる人間の弱みを口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬というんです。(中略)よく覚えとけ。現実は事実だ。そして現状を理解、分析してみろ。そこにはきっと何故そうなったかという原因があるんだ。現状を認識して把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こさない奴を俺の基準で馬鹿と云う」

まだ未読な方は、ぜひ。この本、読まないと損です。

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