いやー面白かった。
一晩で読了。
主人公は、眞杉静枝という実在した作家。
宇野千代、吉屋信子、林芙美子と同時代に生きた人で、
武者小路実篤の愛人として文壇に名を馳せた。
僕は全く知らなかったが、本文を借りれば、
「子どもじみた執拗さで、えらくなりたい、
人に認められたいと願った女。あれほど賞賛や愛情を
ねだった大人の女が他にいるだろうか」
という女性だったらしい。
大した作品は残さなかったが、男を、結婚を、
名声を執拗に求め続け、そのたびに裏切られ
自らも墓穴を掘り、しようがない人生を送った。
なんだか林センセーの奥底にあるものと似ている。
そのせいか、文章は冴えわたり、狂おしく
哀しい眞杉が目の前にいるようだ。
なかでも印象に残ったのは、
「静枝はこの頃ようやくわかった。愛人に
なるということは二つの時計を持つことである。
ひとつの時計は全く動かない時計。
生産することのない時計といってもよい。
世の中の女たちはにぎやかに子どもを育て、
乳をふくませ、そして這いまわるのを追う。
子どもはずんずんと育ち、そして家族は増えていく。
豊かにやさしく時を刻むこの時計を静枝は持っていない。
そしてただ男を待つだけの生活の中では、
もうひとつの時計だけがせわしく動く。
そして静枝は確実に老いへと向かって進んでいた」
林センセー、見事です。