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25年前の未発表小説が発見された、遠藤周作氏のドキュメントを観た。
作品名は「影に対して」。
自分の両親をモデルにした私小説に近い作品だという。
あえて発表しなかったのは、あまりにもプライベートな物語になったからではないかと。
書いたのは、代表作「沈黙」と同時期。
物語の中で、離婚しひとりで死んでいったヴァイオリン奏者の母が主人公に手紙を送る。
その文面が、沁みた。
……
アスハルトの道は安全だから誰だって歩きます。
危険がないから誰だって歩きます。
でもうしろを振り返ってみれば、その安全な道には自分の足あとなんか一つだって残っていやしない。
海の砂浜は歩きにくい。
歩きにくいけれどもうしろをふりかえれば、自分の足あとが一つ一つ残っている。
そんな人生を母は選びました。
あなたも決してアスハルトの道など歩くような、つまらぬ人生を送らないでください。
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