衝撃!「連続殺人犯」小野一光

先日お会いした著者の作品を読了。いやー、すごい本でした。

タイトル通り、何人もの人間を殺めた犯人たちの実像に丹念な取材と、ときには刑務所での面談を重ねながら迫っていきます。

根底にあるのは、「殺人犯を通じて人間を見たかったから」という著者の思い。しかしそこにいるのは、「悪に選り分けられた者たち」だ。

「大牟田連続4人殺人事件」の犯人、北村孝紘は言う。「小野さんね、俺の腕に蚊が止まって血い吸おうとしたら、バシンって打つやろ。それと同じくさ、蚊も人も俺にとっては変わりがない、それだけのことたい」

一方で、著者の小野さんが「なにか差し入れて欲しいものがありますか」と尋ねると、悪戯っぽい表情で「愛」と答えるユーモア、愛嬌もある。

「北九州監禁連続殺人事件」の松永太は面会室で会ったとたん、「いやーっ、先生、わざわざ私のために東京から来ていただき、ありがとうございす」と屈託のない笑顔で弁舌も軽やかに喋り出す。

判明しただけでも十一名の不審死が連なっている「近畿連続青酸死事件」、後妻業の女と呼ばれた筧千佐子は、一度目の面談のあと、「人恋しいのでお会いしたいでーす」といった類の葉書と封書を送り続ける。以降著者は、5か月間、22回の面会を重ね千佐子の内面を見つめようとする。けれど肝心の事件の話になると途端に機嫌が悪くなり、平気で嘘を繰り返す。

小野さんは記す。

「彼女の対話の多くが”暖簾に腕押し”で終わった。(中略)そこで見えてきたのは、彼女の内面に潜む虚無の深さだ。(中略)彼女はそれこそ無感覚という状態で、痛みや苦しみを感じず、相手の痛みや苦しみにも共感できない世界に生きている、という憶測に繋がっていく。これもまた、複数の人を殺すことができる条件の一つということだろう」

こう書いていくと、犯人だけにスポットを当て描いた作品に見えるが、著書は被害者にも丁寧な取材をし、その壮絶な悲しみを正面から書き、きちんと罪の重さを糾弾する。

しかしほんと、人間というのは、計り知れない。とんでもないことをしでかす動物なんだと改めて知らされる。

僕にとっては、アウシュヴィッツ収容所を描いた「夜と霧」を読んだときと同じ感慨を抱いた一冊だった。