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数多くある談志本の中で僕が一番好きなのは、
談幸師匠が書いた三冊(他は『談志狂時代1・2』)。
師匠への思いがとても丁寧な
温かい筆致で綴られているからだ。
たとえば、
師匠は、
「俺は評論家としての目が高いので始末に負えない。
こんな談志は許さない」
と、常に自分の芸に満足しようとしなかった。
師匠は落語に対しては、いつも前と上しか向いてなかった。
師匠はかなりシャイである。
だから自分の親切心をストレートに出すことにとても照れる。
「談志って親切でいいひとね」
と思われるのが気恥ずかしいからだ。
しかし、師匠の言葉の裏には、必ず親切心が隠されている。
辞書の「親切」の意味以上に、師匠の親切は鋭く、温かい。
「親切だけが人を説得する」
師匠が色紙によく書いていた言葉である。
…こんな風に談志師匠のほんとうの姿を描いてくれる。
唯一の内弟子として生活を共にした談幸師匠しか書けないことが満載だ。
「観山寄席」にも何度もご出演いただいている。
ある時打ち上げの席で、
「師匠は完璧な弟子と談志さんに言われたそうですが、
その秘訣はなんですか」
と尋ねると、
「簡単なことですよ。師匠の話をずっと聞けばいいんです。
僕、ずっと高坂さんの話聞いてるでしょ」
あはは、どーもすいません。
談幸師匠の見事な返しに、僕の顔は真っ赤になった。
落語家ってかっこいいなぁ、と改めて思った。
談志師匠を嫌いに人にこそ、この本、
読んで欲しいなぁ。