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良い人に会うと良い人につながり、そうじゃないと負が続く。本も同じだ。
今読んでる落合恵子さんの「質問 老いることはいやですか?」は、久しぶりに気持ちの良いエッセイ。
1編ずつゆっくりと楽しませてもらってるのだが、吉野弘さんの詩を引いてあり、懐かしくて僕も本棚から取り出した。良い数珠つながり。
落合さんは、「一編の詩の中の数行を上等な薄荷飴のように口の中で転がし、飲み込む……」
彼女が紹介しているのが吉野さんの「菜々子に」という作品。僕も大好きな詩です。
折角だから、数珠つながりがわりに。
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菜々子に
吉野弘
赤い林檎の顔をして
眠っている 菜々子。
お前のお母さんの頬の赤さは
そっくり
菜々子の頬にいってしまって
ひところのお母さんの
つややかな顔は少し青ざめた
お父さんにも ちょっと
酸っぱい思いがふえた。
唐突だが
菜々子
お父さんはお前に
多くを期待しないだろう。
ひとが
ほかからの期待に応えようとして
どんなに
自分を駄目にしてしまうか
お父さんは はっきり
知ってしまったから。
お父さんが
お前にあげたいものは
健康と
自分を愛する心だ。
ひとが
ひとでなくなるのは
自分を愛することをやめるときだ。
自分を愛することをやめるとき
ひとは
他人を愛することをやめ
世界を見失ってしまう。
自分があるとき
他人があり、
世界がある。
お父さんにも
お母さんにも
酸っぱい苦労がふえた。
苦労は
今は
お前にあげられない
お前にあげたいものは
香りの良い健康と
かちとるにむづかしく
はぐくむにむづかしい
自分を愛する心だ
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落合さん、この詩を思い出させてくれてありがとうございます。