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さだまさしの歌に「風に立つライオン」という作品があったが、本を読み終え最初に浮かんだのが、その言葉だった。
戦時中、自分の直感を信じて大人たちが止めるのも聞かず防空壕を飛び出した。その後すぐに爆弾が落ち、穴倉にいた人たちはみんな死んだ。
「もう大人の言うことは聞かない。12歳、今日で子どもをやめよう」
と決めた少女はやがて女優になる。
けれど彼女は華やかな芸能界で浮かれるには、知性がありすぎた。
岸恵子は言う。
「わたしはうまい女優であるよりも、いい女優でありたかったし、演ずることにだけ心魂を傾けて、芸ひと筋の人生はいやだった。世界に起こるさまざまな事件の焦点、それに身を絡ませて生きていたかった」
そして彼女はフランス人の監督、イヴ・シャンビと恋に落ち日本を旅立つ。24歳だった。41歳で離婚、その後国際ジャーナリスととして世界を飛び回る。80歳で再び恋に落ち、「わりなき恋」という小説を書きベストセラーになる。
ときにべらんめぇで、ときにエレガントで美貌と知性にあふれた女優、88年間の岸恵子の人生は、彼女の言うように我武者羅だが、つねに孤独を恐れず凛として美しい。
僕も、美味しいオムレツを食べられるよう、これからもいくつもの卵を割る勇気を持とう。
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