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これまでのゴッホを描いた映像や演劇作品とは一線を画す異色作だ。
微かに揺れるハンディカメラは執拗にゴッホの顔や手をアップで追いかけ、観客はまるですぐ近くにいる彼を覗き見てしているような気になる。
ときにカメラはゴッホの視点になり、絵筆を握る見つめる風景が、ぼんやりとぼやけたような幻想的なシーンになり、晩年彼がどんな風景を見ていたのかを教えてくれる。
画家としても名声の高いシュナベール監督が描き出す世界は、芸術家の脳内までを映し出す。
ゴッホが画家を志したのは27歳。それから亡くなるまでのたった10年間で彼は数えきれないほどの傑作を残した。
劇中で、「どうしてこんな醜悪な絵を君は描くのか」と問う神父にゴッホはそっと語る。
「未来の人々のために、神は私を画家にした」
ゴッホさん、その通りですよ。あなたの絵に世界中の人が感動しています。
でもあと10年生きてくれたら、きっとモネのようにあなたの個展がアメリカで開かれ、もっと違う人生が待っていたのに……。
ゴッホの映画を観るたびにいつも思うんですよね。
ああ、あの時代にタイムスリップして全部の絵を買いたい、ってね。
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