情けは人のためならず 「食王」

楡周平

縁あって、飲食業の広告や

企画戦略、イベントなどの

仕事をするようになって

二十数年になる。

けれど、経営者の苦悩や

従業員との付き合い方などに

なると、正直よくわからない。

けれどこの小説を読むと少しだけ

その一端がわかる。

本作は、いささか良い人過ぎるが、

義理と人情に厚い外食チェーン店の

社長が、従業員や日本の未来のために

奔る熱いフードビジネス小説だ。

恩義を受けた人のために買った

麻生のいわく付きビル。

そこでこの物件を使った新企画を

全社員に募るが、反応はない。

そこに、ビルごと借りたいという

人物が現れ……、というようなお話。

飲食業の厳しさ、はたと膝を打つ

文章も多い。

たとえば。

泡の如く生まれては消え、消えては生まれる。

厳しい生存競争に晒されているのが

飲食業界である。

不動の地位を築き上げたかのように見える

大手飲食チェーンにしても、客の支持が

得られなくなればひとかたまりもない。

「以前から私は、これからの日本を支えて

いくのは、観光と第一次産業しかないだろうと

考えていてね。そして、早晩若い世代の目は、

第一次産業に向くと……」

「就職は安定した人生を意味するものではない。

若者は、そこに気がつく。自助努力で全うできる

食に、必ずや目が向くはずだと」

「人生は長いようで短いものだが、それでも

社会派想像以上に変化するものでね……

自分のこれまでの人生を振り返っても、

たった七十年の間に、子供の頃には想像も

できなかったような社会になってるもんなぁ

……。もう今の時代なんて、SFの世界だよ」

そして小説の終わり近くに出てくる言葉が、

「情けは人のためならず」

僕はここでぽろりと涙が。

もっと飲食の仕事頑張ろう、と思わせてくれた

一冊でした。