愚鈍でもいい。ひたすら前へ

「一八◯秒の熱量」 山本草介

パンチは弱い。動きは遅い。

年齢は36。大した戦績も

ないB級ボクサー米澤重隆が、引退

リミットの37になるまでの

9ヶ月間で、世界を目指す道のりを

描いたノンフィクション。

「人を殴らずに勝つ方法がないか」と

思うほど心優しい米澤は、

ハードすぎる夜勤の仕事をこなしながら、

睡眠時間2時間ぐらいでひたすらトレーニング

を続ける。もちろん身体はボロボロだ。

スピードもパンチ力もないため、

相手に近づき、ひたすらボディを打つという

地味なスタイルでしか、戦えない。

そんなボクサーが、奇跡のように勝ち続け

世界戦に近づいていく。

果たして彼の夢はかなうのか。

というお話。

これまで散々読んできたボクシング物語だけど、

本作はちょっと違う。

華やかなヒーローでも、壮絶な人生を

賭けた話でもないのに、

愚鈍で不器用な男が、殴られても

殴られても、前へ前へと向かう姿に

胸が熱くなる。

ボクシングシーンの文章もいい。

第52回大宅壮一ノンフィクション賞も納得の

一冊だ。