傑作!

「デフ・ヴォイス

     法廷の手話通訳士」

          丸山正樹

読み始めたらページをめくる

手が止まらず、気が付いたら

朝になっていた。

小説を読む楽しみのひとつに

知らない世界を知るということが

ある。

本作はまさしく新しい知識を

得る喜び、手話の世界を教えてくれる。

なかでも驚いたのは、

手話にはいくつかの種類があるということ。

一般的に知られている、

日本語に手の動きをひとつひとつ当てはめて

いく手法、「日本語対応手話」。

聴者が手話の教室などで学んだり、

手話通訳士が使用する手話も同じ。

これに対しろう者が昔から使っているものは

「日本手話」と呼ばれ、日本語の文法とは

全く違った独自の言語体系を持っている。

これは生まれた時から使っていないと

なかなか習得できず、聴者はもちろん、

難聴者や中途失聴者などは使いこなせい。

逆にろう者が「日本語対応手話」を理解する

にはいちいちそれを頭の中で「日本手話」に

置き換えないといけないので、

「何とか理解はできるもののかなり疲れる」

ということだ。

物語はコーダで生まれた主人公が

手話通訳士となり、その仕事をして

いく中で、殺人事件が起こる。

それは、主人公がかつて関係していた

17年前の殺人事件と重なりあう。

現在と過去が交錯する謎の果てに

あるものとは……。

ラストシーンの台詞に

涙が滲み、胸が熱くなった。

ミステリーとしても文学としても

この作品は、まぎれなく傑作です。

奥付を見てより納得。

2015年の文庫化以来、2020年で

第10刷。

やっぱりいい小説は読み継がれるんだなぁ。