心の機微は面倒だから 「地先」 乙川優三郎

再読。

知的レベルの高い小説ほど

うねりのある物語性は低く、

人生の断片を切り取った憂い、

心の機微、哀感といったものを

描く傾向にある。

いわゆる純文学系といわれるやつだ。

僕も太宰、梶井にどっぷりの少年、

青年期だったから、純には弱い。

けれど手前で働き、飯を食うように

なって、文芸より、演芸に気持ちが動いた。

人生に対して正味、な感じがしたからだ。

そして今、この両方を味わせてくれる

ものを求めてる。

この本は、まさしくそんな一冊。

上質な文学の香りの奥に、情緒が滲む。

人生の後半に差し掛かった男と女が

織りなす人間模様を静謐に描き、

心の機微を行間に記す。

僕は普段の生活は、人の心の綾を感じない

ようにしている。

なぜなら、面倒だし、つらいから。

なるべく、のほほんと、湯上りのような顔を

して、「アホやから難しいことはわからへん」と

暮らしたい。

だからこそ小説には機微を求める。

そんな矛盾だらけの僕を、

乙川さんは確実に射止める。

大人にしかわからない珠玉の短編集です。